2 分析批評
今ではアメリア=アレナスの対話型鑑賞が日本各地の学校の授業にかなり広まっており,私も実践するようになって6年目となる。しかし,それ以前はどうだったのだろう? 私が新卒として勤め始めたのは18年前。色の褪せたスライドが美術準備室にあり,そういえば大学では,スライド見ながら作品を見せながら解説してくれてたなあと思い出した。そんな解説しても中学生は面白くないだろうし,何かないかなと探すと,後は,鑑賞用掛図が数セットぐらいしかない。しかし,どう使えばいいのだろうか。その当時は鑑賞の授業をどう行えば良いのか皆目検討もつかなかった。とりあえず,テレビで放送された美術に関わる番組を見せて感想を書かせるといったことしかできなかった。デザイン,薬師寺の再興,ルーブル美術館などがテーマの番組など,中学生には難しく,暗い視聴覚室には眠気を催させる時間が流れていた。 そんなとき見つけたのが,『「分析批評」による名画鑑賞の授業』(岩本康裕著,明治図書,1990年)である。11ページには,文部省教科調査官の西野範夫氏(当時)が(文部省内教育課程研究会監修・西野範夫編著『小学校新教育課程を読む・図画工作科の解説と展開』教育開発研究所)のなかで,平成元年改訂の学習指導要領の鑑賞の取り扱いについて,「表現の指導のためのものではなく,児童が思いのままに感じ味わう鑑賞」について指摘し,それに対して,筆者の答えが『「問え」ということである』と述べている。 概略としては,絵の中に描いてあるものを,物,人など分析的に全て見つけ出して,その共通基盤の上に,テーマに迫る発問を繰り返して,絞っていきながら,鑑賞を深めていくという授業である。確かに絵は写真と違って,描いたものは作者が絵の中に必要だから描いたものである。写真の様に物理的にレンズを通って記録された光の画像とは違う。意味のある存在である。多少,誘導じみた感じがないわけではないが,教師側が目的とするゴールに近づいていく。 ピカソの『ゲルニカ』,ゴッホの『アルルの跳ね橋』,北斎の『神奈川沖浪裏』,シャガールの『彼女の周辺』など,有名な作品の例があり,当時の生徒達に対して,鑑賞の授業として取り組んでみた。まだ,当時はパソコンやビデオプロジェクターなどが発達していない時期であったので,図版は掛図か,教科書の画像である。掛図にない場合は,教科書の画像で良い物(画像が大きく,テーマに迫ることが出来そうな作品)があれば,絵の中に描いてあるものをあげさせて,自分なりに発問を考えてテーマに迫っていくように工夫して取り組んでみたものである。当時の教科書の見開きにあったワイエスの『1946の冬』(日本文教出版)や,その次の教科書だったと記憶しているが,ラーションの『最初の授業』(日本文教出版)である。 いろいろな角度からテーマに迫る的確な発問で,あくまで教師の予想を超えない意見で,すんなりまとまっていくが,同時に,「これでいいのか?」という思いも沸き上がってくる。教材研究をするほどに,作品の解釈が様々でいろんな解釈が成り立つ。「学者もいろんな解釈があるんだから君たちももっと自由に感じていいんだよという言葉には説得力がない。」評価においても,どれだけテーマに迫ったかを観点にすると,別な視点から深く味わった生徒は評価されない。 そんなとき,一つの契機になったのが,2002年の旭川市教育研究会(地域の教職員が必ず加盟しなければならない地域の教育研究団体)の図工美術部の毎年恒例の公開研の授業者になったことである。当時は2年後の北海道造形教育研究大会の地元開催に向けて,研究テーマの検討の最中であった。研究テーマとの関連は少なかったもののとにかく鑑賞はこんなに面白くたのしいんだということをアピールしたくて取り組んでみた。題材は北斎の『神奈川沖浪裏』。中学3年生を対象に『神奈川沖浪裏』の画像の「富士」や「舟」のない絵を渡して,OHPのシートに絵の足りない部分を想像させて描かせた。最後に結局この絵の主題は富士なのか波なのか,人なのか考えさせた。今思えば,ひじょうに拙い授業ではあったが,がんばった生徒達のおかげで,そのたのしそうな雰囲気は十分伝わったようである。そんなこともあり,翌年には2004年の北海道造形研究大会の鑑賞領域の授業者を引きうけることになった。
by nobuhiroshow
| 2008-11-04 00:13
| 鑑賞
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