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『触覚の世界』を読んで

 高村光太郎の『触覚の世界』を読んだ。
 高村光太郎にとって、「世界は触覚」だそうである。「触覚とはいちばん幼稚な感覚」であるか「彫刻はいちばん根源的な芸術」だそうである。
 空の碧さは「キメが細かい」。秋の雲は、「公孫樹(いちょう)の木材を斜に削った光沢」で、春の綿雲は「木曾の檜(ひのき)の板目」である。
 「音楽は触覚の芸術」で「全身できく」ので、「音楽には音の方向が必要」。だから、「ラジオの音楽が大した役を為さない」と言うように、嗅覚も味覚も色のトオンも含めた五感は全て触覚である。

 「彫刻家は物を掴みたがる。つかんだ感じで万象を見たがる。」 つまり、「彼の目には万象が所謂「絵のよう」には映って来ない。彼は月を撫でてみる。焚き火(たきび)にあたるように太陽にあたる。」のである。

 高村光太郎は彫刻家としての物の認識の仕方を、わかりやすく教えてくれる。

 確かに、彫刻家は独特で、物をそんな風に見ているのかということは興味深いことであるが、実際私たちも、絵を描いたり、物を詳しく観察するときには、直に触るように目で物を見ている場合がある。
 絵を描くために、モデルを見たり、風景を見たり、美術館に行って作品を見たりするときに、触れる場合は実際に触るが、触れないときは、目で触る。
 それって結構疲れる見方であるが、彫刻家である高村光太郎は常にそんな状態なのかもしれない。

 果たして、「公孫樹(いちょう)の木材を斜に削った光沢」というものがどんなものかはわからないし、一般的でなくてもいいのかもしれないが、自分なりの触覚の世界を楽しむのもいいかもしれない。
by nobuhiroshow | 2009-10-15 06:45 |


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